プロボクサー・井上尚弥選手のWBA・WBC世界戦。世界が注目するその舞台で、我々、刀屋壱(カタナヤイチ)は公式オープニングパフォーマンスを任されました。
試合は2025年12月27日。オファーが届いたのは、そのわずか6日前の12月21日。場所はサウジアラビア・リヤド、日本出発は24日。タイトなスケジュールでした。
井上尚弥選手の試合前パフォーマンス出演が決まるまで
私(刀屋壱代表 水野)は格闘技が大好きで、井上尚弥選手のファンでもあります。あまりにも急なオファーでしたが、名前を聞いた瞬間、心が震えました。
年末の予定は埋まっていましたが、すぐにメンバーと相談し、各案件のクライアント様へ調整をお願いしました。ありがたいことに、皆様は快く送り出してくれて、『この挑戦を受けるべきだ』と迷いなく決断できました。
オファー内容は2名のパフォーマンス。「5〜10分の持ち時間で可能なパフォーマンスを知りたいので、映像を送ってほしい」と依頼があったので、1〜20分、少人数〜大人数まで複数の映像をすぐに提出しました。
「甲冑の用意はできますか?」という相談もありました。用意はできますが、どんなパフォーマンスをするか決まってない中、「甲冑をつけてスピード感があるパフォーマンスができるか?」「先方が望む甲冑を短期間で用意できるか?」という不安はありました。
出発は3日後です。衣装や音楽を用意していると、2分の曲が送られてきて「この曲に合わせて殺陣を披露してほしい。」と言われました。想定外でしたが、新作をアレンジして対応することにしてすぐ稽古に取り掛かりました。
限られた時間で甲冑を準備して、渡航の準備をしました。パフォーマンスの内容や構成に関する細かな指示はなかったので、音楽にあわせていくつかのパターンを用意し、練習を重ねました。
パフォーマンスの詳細がわからない中、準備を進める。
出国前日に「今回は甲冑の用意は必要ない」という連絡が入ったので、パフォーマンスをスピード感のあるものにして微調整しました。出発当日になっても、パフォーマンスの詳細はわからず、衣装も決まってませんでした。しかし、どんな状況にも対応できるよう準備を進めました。
ショーで使用する模造刀(竹光)は4本用意しました。サウジアラビアに向かうのは、水野大と久米亮平の2名。それぞれが一本ずつ刀を使用しますが、予備刀として一本ずつ多く準備しました。竹光はすべて分解し、ケースの中に丁寧に収納し、輸送は慎重に行いました。
衣装も2パターン用意しました。事前に写真で確認はしていたものの、最終的な確定には至っていませんでした。そこで、ひとつは、シンプルな侍の着物一式。どのような演出にも対応できるベーシックな装いです。もうひとつは、日本国内のイベント出演のために制作していた衣装。
怒涛の三日間。やれることはやりました。日本を出発したのは、2025年12月24日。成田空港もクリスマスイブの空気に包まれていました。



サウジアラビア到着、共演者の和太鼓 彩と合流
夕方の飛行機で、成田空港からサウジアラビアに向かいました。アブダビ経由のエティハド航空です。



サウジアラビアのキング・ハーリド国際空港に到着したのは、早朝3時。預けていた荷物を無事に受け取ることができ、一安心しました。海外公演ではロストバゲッジを何度も経験したので、荷物を受け取る瞬間は毎回いちばん緊張します。今回はすべて揃っており、胸をなで下ろしました。

到着ゲートを抜けると、依頼主が待っていてくれました。キャスティングを担当していたサウジアラビアの会社で、彼らと会うのは2年ぶりです。実は、我々は2022年と2023年にパフォーマンスをするためにサウジアラビアに来ています。世界最大級のeスポーツ大会「GAMER8」でパフォーマンスを披露しました。その時の窓口が彼らでした。久しぶりに再開して、ようやくサウジアラビアに来た実感が湧いてきました。
同じ便には、和太鼓 彩の皆さんも搭乗していて、彼らも、今回のオープニングショーに出演するチームでした。和太鼓は楽器が大きいので、移動が大変です。空港で太鼓を運ぶ様子を見て、刀や衣装の移動が大変だと感じていた自分たちの荷物が、少し楽に思えるほどでした。


私たちが乗るバスと、和太鼓を積むトラックが用意され、宿泊先へ向けて移動しました。このタイミングで、空港で対応してくれた依頼主とは一度別れました。
ホテルが違うトラブル、重い荷物を持って移動
バスに揺られて約40分。深夜の静まり返った街を抜け、ようやくホテルに到着しました。長旅の疲れもあり、チェックインして休もうとフロントへ向かうと、返ってきたのは予想外の一言。
「ご予約が入っておりません」
住所もホテル名も合っている。それなのに予約が見当たらない。その場でネットを使い予約情報を確認すると、同じ系列でよく似た名前のホテルが、徒歩5分・約350メートル先にあることが判明します。
距離は近い。しかし太鼓チームは大量の楽器を抱えていました。最大の大太鼓は約30キロ。空港から運搬してくれたトラックのドライバーはすでに立ち去っており、自分たちで運ぶしかありません。
深夜の異国の地。疲労が残る身体に、重い楽器と衣装を抱えての『徒歩5分』は想像以上の試練でした。しかし、誰からともなく役割を分担し、声を掛け合いながら進む。この時間は、和太鼓 彩と私たちが一つのショーを作り上げていくための、大切な一歩になったと感じます。


ホテルに着き、チェックインが終わった頃には、空はすっかり明るくなっていました。
空腹でしたが、長時間の移動と深夜のトラブルで体力は限界。外に出て店を探すより、まず休むことを選び、日本から持参していたカップラーメンを食べました。海外遠征の初日は、移動だけで想像以上にエネルギーを消耗します。すぐ食べられるものを用意しておくことは、とても重要です。
ベッドで短時間の仮眠を取り、サウジアラビア遠征の長かった一日目が終わりました。
しかし、ここからがまた大変でした。リハーサルがはじまってからも想定外の連続でした。
